大判例

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最高裁判所第三小法廷 昭和56年(オ)1230号 判決

上告人

石村福二

右訴訟代理人

松村彌四郎

被上告人

前田由子

右訴訟代理人

安藤貞一

柳本孝正

飯沢進

早川治子

被上告人

飯沢進

被上告人

早川治子

主文

本件上告を棄却する。

上告費用は上告人の負担とする。

理由

上告代理人松村彌四郎の上告理由第一点及び第二点について

債権の譲受人と同一債権に対し仮差押命令の執行をした者との間の優劣は、確定日付のある譲渡通知が債務者に到達した日時又は確定日付のある債務者の承諾の日時と仮差押命令が第三債務者に送達された日時の先後によつて決すべきものであることは当裁判所の判例とするところ(最高裁昭和四七年(オ)第五九六号同四九年三月七日第一小法廷判決・民集二八巻二号一七四頁)、この理は、本件におけるように債権の譲受人と同一債権に対し債権差押・転付命令の執行をした者との間の優劣を決する場合においても、なんら異なるものではないと解するのが相当である。これと同旨の原審の判断は正当であつて、原判決に所論の違法はなく、また、原判決が所論引用の各判例に抵触するものではない。論旨は、ひつきよう、原判決を正解せず、又は独自の見解に基づいて原判決を論難するものにすぎず、採用することができない。

その余の上告理由について

所論の点に関する原審の認定判断は、原判決挙示の証拠関係に照らし、正当として是認することができ、原判決に所論の違法はなく、所論引用の各判例は、いずれも事案を異にし、本件に適切でない。論旨は、ひつきよう、原審の専権に属する事実の認定を非難するか、又は原審の認定にそわない事実若しくは独自の見解に基づいて原判決の不当をいうものにすぎず、採用することができない。

よつて、民訴法四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。

(安岡滿彦 横井大三 木戸口久治)

上告代理人松村彌四郎の上告理由

一、上告理由第一点。

本件債権譲渡と本件差押・転付命令との優劣について、第一審判決が何の理由も付せず「債権譲受人と転付債権者との優劣は、前者の対抗要件具備のときと転付命令の第三債務者に対する送達のときとの先後により決定されるべきである」として、転付命令の債務者に対する送達を不要としたのに対し、原判決は第一審判決の誤りを正し、転付命令の効力発生要件として転付命令の第三債務者および債務者への送達を要件としたが、「債権譲受人と差押・転付債権者との優劣は、前者の対抗要件具備のときと差押命令の第三債務者に対する送達のときとの先後により決定されるべきものである」として、結局、転付債権者が債権譲渡の対抗力否認のためには、転付債権者が差押を為しただけで足り、さらに転付命令自体が効力を発生している必要がないと判示し、本件でも差押・転付債権者初鹿が債権譲受人である上告人に優先するとしたが、右は理由を付しているようで、結局は法律の適用を誤り且つ理由不備の違法を免れられないものである。すなわち両者の優劣については差押命令、転付命令、債権仮差押命令の各立法趣旨、特に時間的に債権譲渡契約並びに譲渡通知の発信が、差押命令の効力が発生した昭和五二年一二月二日一四時一〇分以前になされた本件のような場合と同日同時刻以降になされた場合とに分け、総合的に判断されねばならないので以下順次検討する。

(1) 差押命令

民事執行法施行前の民訴法(以下「民訴法」とあるも同様)五九八条一項所定の差押命令の効力は、同条三項により該命令が第三債務者(被控訴人・被上告人前田)に送達された昭和五二年一二月二日一四時一〇分に至つて初めて効力を生じ、以後債務者(土屋)に対して処分禁止・第三債務者からの取立禁止の効力・第三債務者(被上告人前田)に対して債務者への支払禁止の効力が発生したものであるところ、本件では右差押の効力が発生する以前である昭和五二年一一月三〇日債権譲渡、同年一二月一日譲渡通知の発信(乙第六号証の二)が既になされており、債権譲渡は前記処分禁止効に触れることなく有効であるから、譲受人(上告人)の債権者としての地位にはいささかの変りもなく、ただ民法四六七条二項との関係で、差押債権者(初鹿)に対し差押命令の効力の限度でこれに対抗できないに過ぎないものである。すなわち債権譲受人(上告人)は、昭和五二年一二月二日一四時一〇分以降差押命令の第三債務者(被上告人前田)から取立することはできず、第三債務者(被上告人前田)は債権譲受人(上告人)に対して被差押債権を支払つてはならないという効力があるに止まる。換言すれば差押・転付債権者は、差押命令の効力発生により被差押債権を確保されたが、このことから直ちに転付命令の債務者が第三債務者に対して有する債権移付という効力は発生しておらず、右効力が発生するためには、差押命令も効力を発生していること、すなわち転付命令が第三債務者および債務者へ送達されていることを要するものである。

従つて、原判決が「仮に本件債権譲渡通知の到達が本件転付命令の送達より先であつたとしても、本件差押命令の送達が右譲渡通知の到達よりも先になされたこと前記のとおりであつて、右譲渡の事実を以て右差押に対抗しえず」としたのは正当であるが、このことから直ちに「従つて右差押に基づく換価方法としての本件転付命令にも対抗しえないこととなるものである。」としたのは、民訴法六〇〇条、同法六〇一条の解釈適用を誤り、法令違反の違法を犯すものである。すなわち債権譲渡が転付命令にも対抗しえなくなるのは

① 差押命令が第三債務者に送達されて債務者に対する処分禁止効が発生した後、本件では昭和五二年一二月二日一四時一〇分以降債権譲渡したため、債権譲渡自体が右処分禁止効に触れて無効な場合

② 差押命令の前記効力発生以前の有効な債権譲渡であつても、転付命令の効力発生以前すなわち転付命令が第三債務者および債務者に送達される以前に、債権譲渡通知が確定日付ある証書によつて債務者に送達されておらず、また確定日付ある債務者の承諾を得ていない場合

に限られ、本件のような場合は債権譲渡は転付命令に対抗し得、転付命令の無効を主張し得るものである。

(2) 転付命令

民訴法五九八条三項が、差押命令において第三債務者に対する送達によつて効力を発生し、債務者に対する送達を不問にしているのは、迅速なる差押の効力確保と差押命令にあつては債権移付の効力までないことから債務者への送達を不要としているものである。これに対し同法六〇〇条二項が、差押命令について債務者および第三債務者に送達すべきことを規定し、且つ、同法五九七条三項を準用していないことから債務者および第三債務者に送達されて初めて転付命令の効力が発生すると解されているのは、転付命令にあつては、差押命令と異なり債務者の第三債務者に対する債権を執行債権者に移付せしめるところから、債務者への送達なくしては効力を発生しないとする法意であり、原判決もこれは認めているところである。

然るに、原判決は、本件でも差押命令と転付命令とが一体をなしており、差押命令はあくまで転付命令の差押の効力確保のために発令されるもので、差押命令が第三債務者に送達される以前に債権譲渡が対抗要件を具備していなければ、差押命令に対抗できず、従つてその換価方法である転付命令に対抗できないとしたものであるが、従来大審院以来、債権譲渡と債権差押・転付命令の優劣について、差押命令の対抗要件と転付命令の対抗要件とが異なるとの論議をしてきたのは、転付命令において差押命令と異なり、債務者が第三債務者に対して有する債権を執行債権者に移付するという重大な効力を発生せしめるためには、転付命令の第三債務者のみならず債務者への送達という厳重な手続を要求したものにほかならない。すなわち差押・転付債権者が債権譲渡の対抗力を否認するためには、差押あるを以て足りず、転付命令が第三債務者および債務者に送達されて、転付命令もまた効力を発生していることを要するとしてきたものである。

以上は学説(日本評論社発行、吉川大二郎著「判例転付命令法」一一五頁、一一六頁、付属書類九)(注釈強制執行法(2)三二八頁、三二九頁、付属書類一〇)も後記判例も認め、実務でも定着しているのに、被上告人らは、以上のように解すると本件では差押命令の効力が無意味に帰すると主張し、第一審も原審も右主張を入れたものと解されるが、右は一般に実務上差押命令と転付命令とが同時に発令されているので、両者は相即不離の関係にあり、転付命令は差押命令の換価方法であることを当然に予定して、差押命令の効力は当然に転付命令に承継されるとしたものであるが、差押命令と転付命令との関係は

① 元来、差押命令と転付命令とは目的を異にし、差押命令は転付命令なくしても被差押債権の確保という制度目的があり、民訴法も転付命令とは切り離して差押命令だけの申請を許し、転付命令とは別に存在することを予定している。

② 転付命令は差押命令の換価方法ではあるが、第三債務者の無資力の危険を負担した上での執行行為であるから、差押命令を得た上さらに転付命令の申請に及ぶかとどうか、いつ及ぶか等は全て債権者の自由である。すなわち差押命令があれば当然にその換価方法である転付命令とそれに付随しているものではなく、両者は別個に存在するものである。

③ 差押命令の目的は被差押債権の確保に尽きるから、債権者の利益だけを考慮して、差押命令が第三債務者に送達されただけで効力を発生せしめても何ら支障がないのに対し、転付命令の目的は換価方法として債務者の第三債務者に対して有する債権を執行債権者に移付するものであるから、債権者の利益のほかに債務者の利益をも考慮せねばならず、債務者への送達なくしては転付命令の効力が発生しないとされているのもそのためである。

以上のとおりであつて、差押命令と転付命令とが制度目的を異にする以上、両者の効力発生要件が相異るのも当然であり、本件でも転付命令が債務者に送達される以前に、債務者の利益を無視して債権者の利益だけから、差押命令に付与されている前記効力を当然に転付債権者が取得し、債権譲受人は転付債権者に対抗しえないとすることはできず、これにより差押命令が換価方法にまで至らなかつたとしてもやむを得ない結果であり、これにより差押命令が無意味に帰したとも言えないものである。

(3) 債権仮差押命令

原判決は、最高裁判所昭和四九年三月七日判例(付属書類五)が、債権譲渡と債権仮差押命令の執行との優劣について、前者の対抗要件具備の時と仮差押命令の第三債務者に送達された時との先後により決められるべきであるとしたので、本件差押命令についても第三債務者に対する送達の時に差押の効力が発生することの根拠とし、併せて、債権仮差押においては、仮差押命令の第三債務者に対する送達により、以後第三債務者から債務者に対する支払禁止の効力が発生するから(民訴法七五〇条三項)、その後仮差押債権者は債務名義を取得し、次いで本件差押に移行し、遡つて仮差押の効力を主張すれば目的を達成できるとの法構造になつており、債権差押・転付命令においてもこれと同一に解すれば足り、転付債権者は、まず差押命令の第三債務者に対する送達により、以後債務者に対して処分禁止・第三債務者からの取立禁止、第三債務者に対して債務者に対する支払禁止の効力が発生するから(同法五九八条一項、三項)、その後転付命令が第三債務者および債務者に送達されて、転付命令の効力が発生した時点で、差押命令が効力を発生した時点に遡り、差押命令の前記効力を主張すれば足りるとの根拠としたものと解されるが、右は債権仮差押の法構造と債権差押・転付命令の法構造とが全く異なることを認識しないものである。すなわち債権仮差押の執行にあつては、債務者に予知させることなく執行する必要がある(密行性)ところから、民訴法七四九条三項の規定となり、それとの均衡上仮差押命令の第三債務者に対する送達時に仮差押の効力を発生せしめている(同法七四八条による同法五九八条三項)のに対し、差押命令も被差押債権の確保という緊急性から、該命令の第三債務者に対する送達時の差押の効力を発生せしめているが(同法五九八条三項)、仮差押と異なり密行性がないから、差押命令の第三債務者および債務者に対する送達を要求している(同法五九八条二項)。さらに転付命令にあつては、両者に送達されることなくしては転付命令の効力も発生しないことを法文上も明らかにしている(同法六〇一条、五九八条二項)。これは債権仮差押にあつては、債権の保全という専ら債権者の利益のための制度であるから前記規定となつたのに対し、債権差押・転付命令にあつては、一回的に執行債権者の執行行為が完了するので、債権者の利益のみならず債務者の利益をも考慮した前記規定となつたもので、前記最高裁判例が債権譲渡と債権仮差押の執行の優劣について前記のように解したからと言つて、到底これを本件債権譲渡と本件差押・転付命令との優劣についても同一に解することはできないものである。

二、上告理由第二点。

前記上告理由第一点の見解は、大審院以来の確定した判例であるにもかかわらず、原判決はこれを全く無視し、逆に事案を全く異にする前記最高裁昭和四九年三月七日判例を根拠に第一審判決を維持したものであるが、右は判例違反の違法を免れられないものである。以下大審院判例を順次検討する。

(一) 大審院大正七年(オ)第三六二号転付金請求事件大正八年一一月六日判例(付属書類六)―法律適用の誤り且理由不備。

(1) 判旨

一 債権の転付命令が債務者および第三債務者に送達せらるるときは、債権の存する限り其効を生じ、他に何ら対抗要件の具備を要せざれば、債務者および第三債務者のみならず其他の第三者にも之を対抗することを得るものとす。

二 指名債権の譲渡せられたる後、譲渡人の債権者が該債権を差押え、転付命令を得たる場合に於て、若し其譲渡が確定日付ある証書を以て通知又は承諾せられたるときは、債権者以外の第三者に之を対抗することを得るを以て、転付債権者も其譲渡を認めざるを得ざる結果、譲渡人の債権として為したる転付命令は、仮令債務者および第三債務者に送達せらるるも目的債権の存在せざるため実質上無効にして債権の転付なきものとす。

三 如上債権の譲渡が、確定日付ある証書を以て通知又は承諾せられざるときは、債務者以外の第三者に之を対抗することを得ざるを以て、譲渡人の債権者は尚を譲渡を否認することを得る結果、譲渡人の債権として為したる転付命令は、債務者および第三債務者に送達せられたる以上法律上有効にして、何人にも之を対抗することを得べく、転付債権者は譲受人に比し優勝の権利を有するものとす。

四 転付命令は、債務者および第三債務者に之を送達するに因り其効力を生ずるものなれば、未だ送達の手続なき以上には、如上債権譲渡の通知又は承諾が確定日付ある証書を以て為されたると否とに拘らず、債権が転付せられたりと謂うを得ず。

(2) 本件との比較〈下段表組〉

大判大正八・一一・六

原判決

1 事案

上告人(転付債権者)が訴外木谷清一(債権譲渡人・転付命令の債務者)に対する債権の執行として、大正六年二月二三日、清一の被上告人(債権譲渡の債務者・転付命令の第三債務者)に対して有する売掛代金三〇〇円の債権を差押の上、転付命令を受けたところ、清一はその前日右三〇〇円の債権を訴外山崎スエ(債権譲受人)に譲渡し、同日、書面を以てその旨被上告人に通知したが、その通知は確定日付ある証書を以て為されなかつたのに原審が、民法四六七条二項を単に債権の譲渡人が債務者以外の第三者に対抗するに必要な条件を規定したに過ぎないものとして、上告人(転付債権者)の請求を棄却したので、法律適用の誤り且理由不備で破棄差戻。

差押命令(転付命令)が第三債務者である

被控訴人前田(被上告人前田)に送達されたのは、昭和五二年一二月二日四時一〇分であつたのに対し、債権譲渡通知が確定日付ある証書を以て債務者である被控訴人前田(被上告人前田)に対し送達されたのは同年一二月三日であつた。他方、転付命令が債務者(土屋)に送達されたのも同年同月三日一四時二〇分であつた。

2 判決理由

指名債権の譲渡においては、譲渡人がこれを債務者に通知するかまたは債務者がこれを承諾するときは、譲渡当事者および債務者間の関係では効力を生ずるが、確定日付ある証書を以て右の通知または承諾を為さなければ、これを以て債務者以外の第三者に対抗し得ない(民法四六七条二項)。これに対し債権の転付は、転付命令が債務者および第三債務者に送達されたときは、債権が存在する限りその効力を生ずること民訴法六〇一条、五九八条の法文上明らかであるとした上、前記判旨を展開、これらを判決理由として原判決を破棄。

転付命令は第三債務者と債務者と共に送達されて効力が発生するが、債権譲受人と差押・転付債権者との優劣は、前者の対抗要件具備のとき(確定目付ある通知が債務者に到達した日時又は確定日付ある債務者の承諾の日時)

と差押命令の第三債務者に対する送達のときとの先後に

より決定されるべきものであつて、本件では前者が昭和五二年一二月三日、後者が同年同月二日であるから、本件差押・転付命令が本件債権譲渡に優先する。

(3) 結論

問題は、大判大正八年一一月六日が、上告人(転付債権者)が訴外木谷清一(債権譲渡人)と同山崎スエ(債権譲受人)間の債権譲渡の対抗力否認のためには、上告人(転付債権者)が差押を為しただけでは足りず、転付命令も効力を発生していることを要すると解しているかどうかにある(付属書類一二)ところ、次の理由から転付命令も効力を発生していることを要すると解しているものである。

① 前記大判と前記判決理由冒頭で、まず民訴法六〇一条、五九八条を掲げ、注文上差押命令と転付命令の相違を明確に認識しており、上告理由第一点のように解すべきことを判示して、前記判旨、特に本件との関係でいえば判旨二となつたものである。すなわち

「指名債権の譲渡せられたる(本件では昭和五二年一一月三〇日)後、譲渡人の債権者が該債権を差押え、転付命令を得たる場合に於て(本件では差押・転付命令の発令は昭和五二年一二月一日)、若し其譲渡が確定日付ある証書を以て通知又は承諾せられたるときは(本件で昭和五二年一二月一日発信、同年一二月三日送達の確定日付ある証書を以て譲渡通知)、債務者以外の第三者(本件では初鹿)に之を対抗することを得るを以て、転付債権者(ここで何ら差押命令に触れることなく、直接転付命令との関係を論じていることから、差押命令の対抗要件だけでは足りない、との主旨と解される)も其譲渡を認めざるを得ざる結果、譲渡人の債権として為したる転付命令は、仮令債務者および第三債務者に送達せらるるも(本件では債務者への送達が昭和五二年一二月三日一四時二〇分、第三債務者への送達が同年一二月二日一四時一〇分)、目的債権の存在せざるため実質上無効にして債権の移付なきものとす。」

従つて、本件のような場合転付命令は無効となり、差押命令だけが有効に存在していることになるが、民訴法は、元来差押命令と転付命令とが別個の存在理由を有していることから、かかる状態も予測していること前記上告理由第一点記載のとおりであつて、前記大判のような解釈を以て差押命令の効力が無意味に帰するとは言えないものである。

② 判例評釈も前記大判の主旨を前記①のように解している(付属書類四赤線部分)。

(二) 大審院昭和三年(ク)第七七四号債権差押命令並に転付命令に対する異議却下決定に対する抗告事件昭和三年一〇月二日大審院決定(付属書類二)―重要なる手続違背。

(1) 決定要旨

転付命令は第三債務者に送達せらるるも債務者に送達なき間は債権転付の効力を生ぜざるものとす。

(2) 本件との比較

大決昭和三・一〇・二

原判決

1 事案

債権者が、債務者の住所が和歌山市にあるものとして、昭和三年七月二四日、和歌山区裁判所に債権差押・転付命令を申請し、同日、第三債務者に送達されたが、債務者には送達されていなかつたので、債務者はその後住所を東京府渋谷町に転居していたから管轄違であることを理由に昭和三年七月二四日異議の申立をしたのに対し、原審も第一審も差押・転付命令は第三債務者に送達されているから執行手続は既に終了していることを理由に却下したのに対し、重要なる手続違背を理由に破棄。

前記(一)(2)記載事案に同じ。

2 決定理由

(1) 債権差押・転付命令は一面に於ては債務者に対する裁判なるが故に、債務者に対してその告知の手続を終了しない間は強制執行手続は終了しない。

(2) 殊に転付命令は債務者の第三債務者に対する債権を債権者に移転するものであるから、該転付命令が未だ債務者に送達されていないのに単に第三債務者に送達されたからといつて、既に転付の効力を生じ、債務者がその債権を失うとすることは到底是認できない。

(3) 以上は民訴法六〇〇条二項、五九八条二項、六〇一条において、転付命令は職権を以て第三債務者にこれを送達し、また、債権者にはその送達したる旨を通知することを要し、これらの手続をなして始めて債務者は債権の弁済を為したものと看做す旨規定した所以であつて、転付命令が既に第三債務者に送達されても未だ債務者に送達されない間は転付の効力を生せず、強制執行の手続も未だ終了していない。

(4) 前記(二)記載大判大正八・一一・六判例を引用。

前記(一)(2)記載判決理由に同じ。

(3) 結論

前記大決も決定理由で、前記大判大正八年一一月六日を引用し、民訴法五九八条、六〇〇条、六〇一条の解釈を大審院として統一したのに、原判決は、右大決が直接債権譲渡の対抗要件と債権差押・転付命令の効力発生要件とについて判示したものでないので、これを採用しなかつたものと解される。

確かに前記大決は、債権差押命令並に転付命令に対する異議申立事件についてのものであるから、直接債権譲渡の対抗要件との関係で転付命令の効力発生時期を論じたものでないが、第一審、第二審とも差押・転付命令が第三債務者に送達された時点で執行行為が完了、以後転付命令に対し異議申立が許されないとしたのを破棄し、前記大判大正八年一一月六日をことさら引用して、債務者の異議申立を認容したのは、転付命令の効力発生には転付命令の債務者への送達をも必要とすることによつて、債務者に異議申立の機会を与えて、これを救済しようとしたもので、右法理は民法四六七条二項の債権譲渡との関係でも同様であつて、転付命令の効力発生には差押命令の対抗要件とは別に転付命令の債務者への送達を要し、債務者へ送達されない間に債権譲渡が対抗要件を具備すれば債権譲渡人(転付命令の債務者)はこれを理由に異議申立をなし、転付命令の無効を主張しうると判示しているもので、本件事案にも当てはまるものである。

(三) 大審院昭和七年(オ)第一〇一号講金請求事件昭和七年六月二八日判例(付属書類七)―法律適用の誤り若くは審理不尽。

(1) 判旨

甲が乙に対し債権を譲渡したる後、甲の債権者丙が同一債権を差押え、次で転付命令を得たる場合に於て、甲の乙に対する債権譲渡の通知又は承諾が、確定日付ある証書を以て為されたものに非ざりしときは、債務者は丙に対して其の債権を弁済することを要するものとす。

(2) 本件との比較

大判昭和七・六・二八

原判決

1 事案

訴外田中伊勢蔵(債権譲渡人・債権仮差押命令並びに転付命令の債務者)は、昭和三年四月八日、被上告人(債権譲受人)に対し講金一九四円二〇銭を譲渡し、右債権譲渡については講総代等の承諾を得ていたが、口頭による承諾であつたところ、昭和三年九月二二日訴外田中伊勢蔵の債権者田浦光男等より仮差押を受け、その後昭和六年九月八日、債権差押の上転付命令を受けたという事案において、原審が(1)債権譲渡の承諾は確定日付ある証書を要せず、口頭でも債務者に対抗しうる(2)債権譲渡は仮差押の以前である昭和三年四月八日になされているから、債権は右仮差押当時に既に訴外田中伊勢蔵から被上告人に移転しているとしたので、法律適用の誤り若くは審理不尽を理由に破棄。

前記(一)(2)記載事案に同じ。

2 判決理由

(1) 民法四六七条二項により、確定日付ある証書による承諾を得ていない被上告人(債権譲受人)は債務者以外の第三者である田浦光男等に対抗でぎない。

(2) 大判大正八年一一月六日を引用。

(3) 前記(1)(2)記載の理由から債権譲渡についての確定日付ある証書による承諾の有無、田浦光男等の差押命令の有無、転付命令の有無についての審理不尽を理由として破棄。

前記(一)(2)記載判決理由に同じ。

(2) 結論

大判昭和七年六月二八日も、次の理由から、前記大判大正八年一一月六日と同様、田浦光男(仮差押債権者・転付債権者)が訴外田中伊勢蔵(債権譲渡人)と被上告人(債権譲受人)間の債権譲渡の対抗力否認のためには、債権譲渡についての確定日付ある証書による承諾があつた場合には、田浦光男等は差押を為しただけでは足りず、転付命令も効力を発生していることを要するとしたものである。

① 前記大判においては、昭和三年四月八日債権譲渡があつたこと、同年九月二二日田浦光男等の仮差押があつたこと並びに昭和六年九月二二日田浦光男等の債権差押・転付命令が発令されていることだけしか事実が判明しておらず、換言すれば債権譲渡については

イ 債務者の承諾の有無。

ロ 債務者の承諾があつたとすれば口頭か確定日付ある証書によるものか。

ハ 確定日付ある証書によるものであったとすればそれはいつの承諾か。については事実関係が明らかでなく、他方債権差押・転付命令については

A 差押命令の第三債務者に対する送達時。

B 転付命令の第三債務者および債務者への送達時。

については事実関係が明らかでなかつた。

若し前記大判が債権譲渡の対抗力否認のためには差押あるを以て足りると解しているのであれば、前記ハとAの審理不尽だけで原判決を破棄すれば足りたのに、前記Bの審理不尽すなわち「及田浦光男等は上告人等抗弁の如く本件講金を差押へ、次の転付命令を得たるや否の事実を審理せさる可らさるに拘らず」と破棄しているもので、右は差押あるだけでは足りず、前記Bがハより早く転付命令が効力を発生していないと債権譲渡の対抗力を否認できないとの主旨である。

② 前記大判大正八年一一月六日が以上のように解していること前記(一)記載のとおりであり、大判昭和七年六月二八日が判決理由で右大判大正八年一一月六日を引用しているから同様に解しているものである。

③ 判例評釈も以上のとおり解している(付属書類四、赤線部分)。

(四) 大審院昭和一三年(オ)第一三一号抵当権移転登記抹消並抵当権移転登記請求事件昭和一三年七月五日判例(付属書類八)―上告棄却。

(1) 判旨

債権譲渡は、転付命令が債務者および第三債務者に送達される以前に対抗要件を具備しなければ、転付債権者に対抗しえない。

(2) 本件との比較

大判昭和一三・七・五

原判決

1 事案

被上告人(転付債権者)が上告人移田殖産無尽株式会社(転付命令の債務者、債権譲渡人)に対して有した金八○○円の債権に基づき右会社が訴外杉原富太郎、同赤塚栄一(転付命令の第三債務者、債権譲渡の債務者)に対して有した抵当権付債権について、債権差押・転付命令を得、これらの内富太郎に関する分は昭和一〇年一二月九日、英一に関する分は同年一〇月二九日それぞれ債務者および第三債務者に送達されているのに、上告人柴田末蔵、同秩父重孝、同近藤ノエ、同淡路豊太郎の四名が前記転付命令の送達より以前に前記抵当権付債権の譲渡を受け、第三者に対する対抗要件を具備していたとの主張も立証もなかつたので、原審が上告人らの善意なりしや否を判断せずして、上告人らの主張を排斥したのを正当として上告棄却。

前記(一)(2)記載事案に同じ。

2 判決理由

転付命令の債務者および第三債務者に対する送達により、前記抵当権付債権は上告人移田殖産無尽株式会社より被上告人に法律上移転し、被上告人は爾後第三者に対しても右抵当権付債権を取得したことを主張する要件を完備したものというべく上告人柴田末蔵、同秩父重孝、同近藤ノエ、同淡路豊太郎の四名が、前記転付命令の債務者および第三債務者への送達より以前に本件抵当権付債権の譲渡を受け、第三者に対する対抗要件を具備したとの主張も立証もないから、上告人らは債権譲渡を以て被上告人(転付債権者)に対抗しえない。

前記(一)(2)記載判決理由に同じ。

(3) 結論

前記大判(一)(三)記載各判例同様債権譲渡の対抗要件並びに債権差押・転付命令の対抗要件および両者の優劣そのものについて論じ、前記(一)乃至(三)記載の大審院判例を再確認し、ここに大審判例を確立したものである。

三、上告理由第三点。〈以下、省略〉

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